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最高裁判所第一小法廷 昭和37年(あ)208号 決定 1963年5月30日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人岩村隆弘の上告趣意第一点は判例違反をいうが、所論判例は本件事案と内容を異にする事案に関するものであって、本件に適切のものとは認められないから、所論はその前提を欠き、適法な上告理由として採用できない。なお、刑法一六二条二項の有価証券虚偽記入罪の規定は、同条一項の偽造又は変造に対し補充的性質を有するに過ぎないのであるから、本件のように、行使の目的を以て振出人欄に他人の名義を冒用して約束手形を偽造し、かつ裏書人欄に他人名義を冒用して虚偽の記入をなし、その表裏の記入相合して裏書担保のある約束手形を作成したような場合は、これらの行為を包括的に観察し、同法一六二条一項の有価証券偽造の一罪を構成するものと解すべきであるとした原判決の判断は、当裁判所もこれを正当として支持する。所論は、これと同趣旨の原判決引用の各大審院判決は、所論指摘の当裁判所判例によって変更されたものと論ずるが、前者と後者は事案の内容を異にするものであるから、所論には同じ難い。

同第二点は量刑の非難であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

なお、記録を調べても各所論につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七 裁判官 斎藤朔郎)

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